連載「手放さずに、増やす ── 人生100年時代、大企業人材の選択肢」。第4回の派遣に続き、あなたと仕事のあいだに立つ仲介を、横に並べて見ていく。求人を紹介してもらう/自分で取りに行く/成立ごとには取らない——三つのモデルの長所と短所を確かめ、最後に、その裏側で報酬がどこを向いているのかに分け入る。一社一社の品評ではなく、仕組みの比較として。
前回は、仲介の構造を解剖する、その最初の一業態として、労働者派遣を見た。派遣会社は、あなたを雇う雇用主でありながら、あなたを別の会社に送り出す仲介者でもある。その二つの顔が一人に同居することで、両側の値段を一手に握る——というのが、前回たどった構造だった。
だが、あなたと仕事のあいだに立つ仲介は、派遣だけではない。いまの勤め先の外に、別の道を探そうと手を伸ばすとき——転職を考えるとき、副業を始めようとするとき、あるいは役職定年や転籍をきっかけに次を探すとき——あなたは、いくつもの種類の仲介サービスに出会う。求人を紹介してくれるエージェント。自分で案件を探しに行くマッチングのサイト。スカウトが届くサービス。副業を仲介するプラットフォーム。形も、使い心地も、それぞれ違う。
これらは、ばらばらの便利なサービスのように見える。だが、その内側にある「仕組み」——どういう約束で、誰と誰を、どう結びつけているのか——を取り出して横に並べると、いくつかの型に整理できる。そして、どの型を使うかによって、あなたが受け取れるものと、受け取れないものが、はっきり変わってくる。
今回は、その仲介のモデルを、横に並べてみる。型ごとに、それを使う人——とりわけ、長く一つの組織でキャリアを積み、いま持ち運べる選択肢を探している人——にとって、何が長所で、何が短所なのかを、一つずつ確かめていく。そして最後に、その長所と短所が、なぜそういう形になるのか、その裏側に分け入る。
仲介のモデルは、利用する人の側から見ると、その人が「何をするか」で、おおきく三つに分けられる。
一つめは、求人を紹介してもらうモデルだ。あなたは登録して、希望を伝える。すると、仲介者が、あなたに合いそうな求人を持ってきてくれる。人材紹介のエージェントが、その代表だ。
二つめは、自分で案件を取りに行くモデルだ。仲介者は、案件が並ぶ場(プラットフォーム)を用意する。あなたは、その場で自分に合う案件を探し、自分で応募し、自分で交渉する。クラウドソーシングのサイトや、スカウトが届くサービスが、ここに入る。
三つめは、取引が成立するたびに手数料を取る、というやり方をやめたと掲げるモデルだ。比較的新しく登場した、副業や業務委託の仲介に多い。成立ごとの手数料に頼らず、別のしくみで成り立たせようとする。
この三つを、これから順に開けていく。だがその前に、一つ、奇妙な共通点を置いておきたい。いま挙げたモデルのほとんどで、求職者であるあなたは、仲介者に一円も払っていない。エージェントに紹介してもらっても、料金は請求されない。マッチングのサイトも、登録は無料だ。
これは、偶然ではない。民間の職業仲介が「労働者から手数料を取ってはならない」という原則は、国際労働機関(ILO)の条約に定められた国際標準であり、日本もこれを批准し、職業安定法で法制化している1。求職者がお金を払わずに済むのは、この国際的な約束の、国内での実装にほかならない。
だとすれば、当然、次の問いが浮かぶ。あなたが払っていないのなら、これらの仲介者は、いったい誰から、何に対して、お金を受け取っているのか。この問いは、いったん宙に浮かせておく。三つのモデルの長所と短所を見終えたあと、最後にこの問いへ戻ってくる。そのとき、長所と短所の裏側が、ひとつの像を結ぶ。
最初は、求人を紹介してもらうモデルだ。外に出ようとするとき、多くの人が最も多く接するのが、この型である。大手の総合的な人材グループも、専門に特化した小さなエージェントも、基本の仕組みは同じだ。あなたが登録し、希望を伝えると、担当者がつき、求人を紹介してくれる。
このモデルの長所は、はっきりしている。
第一に、扱う求人の量だ。大手のエージェントは、表に公開している求人だけでなく、登録した人にしか見せない「非公開求人」を、多く抱えている。ある大手のエージェントは、公開求人がおよそ76万件あるのに対し、非公開の求人を、およそ27万件持つ、と公表している2。条件の良い求人のなかにも、競合への秘匿などの理由で表には出さず、エージェントを通してしか出会えないものがある、とされる2。
第二に、伴走してくれることだ。職務経歴書の書き方を助言し、面接の日程を調整し、年収の交渉を代わりにやってくれる。長く一つの組織にいて、外の労働市場の作法に不慣れな人にとって、この伴走は、心強い。自分一人では越えにくい最初の壁を、下げてくれる。
第三に、何より、無料で使えることだ。これだけの手間をかけてもらって、求職者の側は、料金を払わない。
だが、このモデルには、使った人がしばしば感じる、もやもやとした短所もある。
一つは、紹介される求人が、どこか偏って感じられることだ。自分の希望とは少しずれた、けれども話が早く進みそうな求人を、熱心に勧められる。逆に、本当に行きたいけれど決まるかどうか分からない求人には、担当者の熱が、なぜか薄い。
二つめは、急かされる感覚だ。「この求人は人気なので早めに」「内定が出たら二週間以内にご返事を」。じっくり考えたいのに、決断を前へ前へと押される。立ち止まる時間が、与えられにくい。
三つめは、自分の本当の市場価値が、最後まで分からないことだ。エージェントは、あなたにいくつかの求人を見せてくれる。だが、その人が、いま労働市場全体でどのあたりに位置するのか、本当はもっと上を狙えるのか、その全体像は、見せてくれない。第2回で見た「自分の値段が自分に見えない」という壁は、このモデルでも、解かれないまま残る。
二つめは、自分で案件を取りに行くモデルだ。仲介者は、案件が並ぶ場を用意するだけで、誰と誰を結ぶかは、利用する人自身が決める。このモデルには、性格の違う二つの形がある。
一つは、案件が一覧で並ぶマーケットプレイス型だ。クラウドソーシングのサイトが、その代表である。文章を書く、設計をする、相談に乗る——さまざまな仕事が案件として並び、あなたは自分で選んで応募する。長所は、自由と、始めやすさだ。会社を辞めなくても、いまの仕事を続けながら、小さな副業から試せる。企業と直接やり取りでき、間に人が立たない。会社を辞める前に、自分の専門が外でいくら値段がつくのかを、小さく試すには、向いている。
短所は、二つある。一つは、手数料が、自分の受け取る報酬から差し引かれることだ。このモデルでは、③と違って、働く側が手数料を負担する。国内の大手では、受け取る報酬の額に応じて、5%から20%ほど3。受け取った金額から、その分が引かれる。
もう一つは、自分の専門が、思っていた値段では取引されないことだ。案件は多くの応募者が取り合うため、単価は競争で下がりやすい。そして、これは、クラウドソーシングを主に使う層だけの話ではない。大企業で部長まで務めた経歴であっても、その中身が、どの組織でも通用する汎用的な管理の経験で、持ち運べる固有の専門に乏しければ、外の市場では、ほかの多くの応募者と並んで値踏みされる。スキルという物差しで測り直したとき、本人の自己認識と、市場の評価のあいだには、しばしば、思った以上の隔たりが現れる。第2回で見た「自分の市場価値が、自分には見えない」という壁は、この場では、価格という具体的な形をとって、目の前に現れる。
もう一つは、スカウトが届くスカウト型だ。あなたは経歴を登録して、待つ。すると、その経歴に関心を持った企業や、別のエージェントから、声がかかる。ハイクラスの転職に特化したサービスが、この型をとっている。長所は、待っているだけで、自分の市場価値の手応えが得られることだ。どんな企業から、どれだけスカウトが来るか。その数と質が、自分がいま外からどう見えているかを、間接的に教えてくれる。自分の値打ちを確かめる入口として、使える。短所は、このモデルでは、求職者の側が一部の料金を負担する場合があること、そして、届くスカウトの質に、ばらつきがあることだ。数は来ても、的を外したスカウトに紛れて、本当に意味のある声を見分けるのに、手間がかかる。
三つめは、取引が成立するたびに手数料を取る、というやり方をやめたと掲げるモデルだ。比較的新しく、副業や業務委託の仲介に多く見られる。
働く人から手数料を取らない、という点だけなら、②で見たとおり、どのモデルも同じだ1。このモデルが正面から掲げるのは、その先である。あるサービスは、フリーランスや副業で働く人から、登録料も、応募料も、成立時の手数料も取らず、そのうえ、企業の側からも、採用が成立するたびの成功報酬を取らない。案件が成立しても、報酬は満額、働いた人の手元に入る。間で抜かない、と掲げる4。では、何で成り立っているのか。多くは、企業の側から、採用ごとではなく、月ぎめの定額——サブスクリプションに近い形——で受け取っている4。
このモデルの長所は、働く側にとって、わかりやすい。報酬が満額入り、成立を急かす動機が、仲介者の側に生まれにくい。そして、これらのサービスは副業を前提に設計されていることが多く、いまの仕事を続けながら小さく始める、というこの連載が勧める入り方と、相性がいい。会社を辞めずに、自分の専門を外で試してみたい人にとって、向いている。
短所は、その裏側にある。一つは、案件の数が、まだ少ないことだ。もう一つは、事業として続くかどうかが、外からは見えにくいことだ。企業から受け取る定額の料金は、公開されていないことが多く、それが安いのか高いのかも、外からは分からない4。
向きは、働く人の側を向いている。だが、それを支える土台は、外からは見えない。
三つのモデルを見てきた。それぞれに、長所と短所があった。紹介してもらうモデルは、求人が豊富で伴走してくれるが、なぜか偏った求人を勧められ、急かされる。取りに行くモデルは、自由で始めやすいが、手数料を引かれ、買い叩かれやすい。取らないモデルは、報酬が満額入り向きは働く人寄りだが、案件が薄く、続くか分からない。
これらの長所と短所は、ばらばらに見えて、実は、一つの同じ場所から生えている。②で宙に浮かせた問いに、ここで戻ろう。あなたは、これらの仲介者に、料金を払っていなかった。では、誰が、何に対して払っているのか。
紹介してもらうモデルでは、お金を払うのは、採用する企業だ。しかも、ただ払うのではない。紹介した人の採用が成立したとき、はじめて、紹介した年収のおよそ35%が、報酬として支払われる5。成立しなければ、どれだけ手間をかけても、報酬はゼロだ。この市場全体で、こうして支払われる手数料は、年間およそ9,835億円。常用の就職一件あたり、平均でおよそ103万円にのぼる6。すると、紹介する側にとって、報酬を生むのは「採用が成立すること」になる。「あなたにとって最善の道が選ばれること」ではない。両者は、しばしば一致するが、つねに一致するとはかぎらない。この、報酬が取引の成立に向いているという一点から、③で見た短所——決まりやすい求人を勧める、急かす——が、自然に生えてくる。経済学では、誰かの代理として動く者が、自分の報酬の都合で依頼人の利益とずれた行動を取りうる、という構造を、古くから知っている7。労働市場の仲介者は、マッチングを助けもするが、時に妨げ、時に利用しもする、と論じた研究もある7。
ただし、この結びつきは、報酬の構造から導かれる傾向であって、個々の担当者の意図ではない。急かしの一部は、人気の求人が実際に早い者勝ちであるという、市場そのものの速さの反映でもありうる。それでも、報酬が成立に向いているかぎり、仲介者の関心が成立の側へ傾きやすいことは、誰の善意や悪意とも関わりなく、構造として残る。
取りに行くモデルでは、お金を払うのは、取引そのものだ。マーケットプレイス型では、成立した取引の額に応じて、手数料が場の運営者に入る3。だから、運営者は、取引の量を増やしたい。だが、一つひとつの単価は、多くの応募者が取り合うことで、競争的に下がっていく。④で見た「買い叩かれやすい」という短所は、報酬が取引の額に比例する、というこの仕組みの裏面である。スカウト型では、報酬の組み立てが少し違い、場を使い続けてもらうための定期的な利用料が、収益の柱になっている8。報酬が「取引の成立」よりも「場の利用」に向くぶん、向きは、わずかに働く人の側へずれる。
取らないモデルは、まさに、この報酬の向きを、取引の成立から切り離そうとした試みだ。働く人から取らず、成立ごとにも取らない。だから、急かさないし、満額を渡せる。⑤で見た「向きが働く人寄り」という長所は、ここから来ている。だが、報酬を取引から切り離したことの代償が、そのまま短所になる。取引が増えても自動では儲からないため、収益の柱を別に立てなければならず、それが細ければ、事業は続かない。⑤で見た「持続性の不安」は、長所と同じ根から生えた、双子の短所である。
ここまで並べると、一つのことが見えてくる。それぞれのモデルの長所と短所を決めているのは、サービスの善し悪しでも、運営する会社の姿勢でもない。報酬が、何に向かって支払われているか——その向きである。報酬が取引の成立に向けば、仲介者の関心は成立を急ぐ側へ傾く。取引の額に向けば、取引の量は歓迎されつつ、単価は競争で圧縮されやすくなる。場の維持に向けば、向きは働く人に近づくが、こんどは持続性が揺らぐ。どのモデルも、その報酬の向きゆえに、純粋に、利用する人の最善だけを向くことが、できていない。
そして、報酬の向きは、もう一つ別の面に影を落とす。情報である。仲介者は、求職者から、経歴も、希望も、行動の記録も、大量に預かる。報酬が取引の側を向いているとき、その情報もまた、取引の側に使われうる。報酬と情報は、あいだに立つ者が握る同じ一つの構造の、二つの面なのだ。かつて、ある就職情報サービスで、求職者が残した行動の記録から「内定を辞退する確率」が予測され、そのスコアが採用する企業の側に提供されていたことが、表面化した。本人の同意なく扱われた学生は、再調査で26,060名にのぼり、行政指導が行われている9。求職者は、データを提供する側でありながら、そのデータが何に使われるかを、制御できなかった。報酬と情報が取引の側を向くとき、当人のために集められたはずのものが、当人に向き直ることがある。②で置いた「あなたは払っていない」という事実は、だから、安心の材料ではない。払っていないあなたは、この仕組みのなかで、顧客ではなく、商品に近い位置に立っている。
ここまでの解剖から、手を入れる場所は、はっきりしてくる。仲介という仕組みの、報酬の向きが、利用する人の最善からずれている、その一点である。
成立ごとの手数料を取らないモデルは、向きを変えられることを、すでに示した。報酬を取引の成立から切り離せば、仲介者は急かさず、満額を渡せる。残った課題は、その向きを保ったまま、どうやって事業として持続させるか、だった。だとすれば、目指す形は、見えてくる。取引の成立にも、取引の額にも依存せず、けれども細りもしない報酬——たとえば、取引そのものから切り離された、場を維持するための中立の料金——を、どちらの当事者でもない第三者が引き受けられるか。報酬の向きが、取引でも、運営者の儲けでもなく、場が公正に保たれること自体に向くなら、あいだに立つ者の向きは、はじめて、利用する人の最善と揃う。
利用する人にとっての含意は、もっと手前にある。自分がいま、どのモデルの仲介を使っているのか。そして、その仲介の報酬が、どこを向いているのか。それを知ることが、囚われを解く最初の一歩になる。報酬が取引の成立に向いているエージェントに急かされていると気づけば、立ち止まる理由ができる。手数料が自分の報酬から引かれていると知れば、その分の値打ちを、別の場所で取り戻す算段ができる。どのモデルも完全ではない、と分かっていれば、一つのモデルに囲い込まれずに、複数を使い分けられる。
第4回の派遣とあわせて、ここまでで、あなたと仕事のあいだに立つ仲介の主要なモデルを、横断して見たことになる。どのモデルも、報酬の向きゆえに、利用する人の最善だけを向ききれない——これが、仲介のモデルを横断して見えてきた、業界に共通する構造だった。では、この構造のなかで、囚われた人材が選択肢を取り戻すには、何が後押しになるのか。次回は、視点を変えて、いま政府が進めている副業の推進——労働市場を柔らかくしようとする政策の追い風——が、この人たちにとって何を意味するのかを見ていく。解剖から、解へ。連載は、後半に入る。
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